日本人の平均読書能力
 
小説(それも、純文学ではなくて、軽いタッチの大衆小説)のような文章を読む時の日本人の平均的な読書能力は、分速400文字前後です。もっとも、これは老人から子供まで含んでの数字で、健康な成人だけを選んで読書能力を測定すると、分速600文字前後となります。
 
これは、ごく普通の文庫本、新書の本を1分でい1ページずつ読んでいく能力、ということになります。実際、電車の中で読書している人の様子を観察しながら計測してみますと、10人中9人までが5秒と狂わずに、2分ごとにページをめっくっていく現象が見られます。見事に分速600文字前後で読んでいるわけです。
 
また、一切これまで速読法の訓練を受けたことがない、という人だけを無作為に抽出して、読書能力を計測してみたことがあります。その結果は、最低が分速200文字、最高が分速1,000文字で、それ以上もそれ以下もなく、その間で「正規分布曲線」を描きました。そしてピークは分速400文字と600文字の間でした。
 
さらに知的な業務に携わっている階層の代表として、一流といわれているK出版社の編集者の読書能力を計測してみたことがあります。その結果は、最低が分速600文字、最高が分速1,200文字で、その間で「正規分布曲線」を描きました。そして、ピークは分速800文字のところです。健康な成人の平均値よりも、分速で200文字はど高かったわけです。
 
このことから「ふだん知的な業務に携わっていて、活字に接したり文章を読む機会の多い人たりの読書能力の平均値は、分速800文字前後のところに来ているであろう」と推測されます。実際、資格試験専門の予備校の受講生(現役の大学生から相当な年配の方まで混ざっていて、年齢構成としてはバラツキが大きい)の読書能力を測定してみますと、やはり平均値は、分速800文字前後のところでした。
 
速読能力は難関突破の必要条件
 
さらに、首都圏のいくつかの大学の学生を対象に読書能力を計測してみますと、従来の抽出方式と比較して、格段に速いところに平均値がくることが判ったのです。大学によって多少のバラツキは出ますが、分速1,000文字を越える学生が多くいました。上記のような現象から、もはやある程度以上の大学に入ろうと志望したら、速読能力は十分条件ではないものの、制限時間内で合格点を確保するためには必要条件になっている、と言うことができます。
 
これらの学生たちが、こうした能力を身につけるのに、どこかの速読教室で速読の訓練を受けたか、それとも、速読の独習書で自己流に速読法に取り組んでみたか、あるいは生まれながらに天性の素質で、並外れて速い読書能力を持っていたか、理由はいろいろとあるでしょう。
 
修得方法はさておいても、首都圏・大都市圏の大学に入学するには、日本人の平均値を大きく上回る読書能力を備えていなければならない、ということです。逆に言えば、ある生徒の読書能力を測定してみて、分速400文字とか500文字とかだったりしたら、過去の入試問題を実際に解かせてみるまでもなく、「君の志望校は○○大学だそうだけれど、ちょっと合格するのは難しいよ」と、現実の厳しさを教えてあげたほうがいいかもしれません。
 
そして早急にこの弱点を補強する手段を講じさせ、持てる実力を制限時間内で発揮し終えるように持っていかなければいけない、というのが現在の状況なのです。ちょっと例として適切かどうかわかりませんが、オリンピックに日本人選手が出場する場合、最初のハードルとして参加標準記録をクリアすることが必要です。たとえ国内で第一人者であっても、この参加標準記録を突破していなくては日本人代表としてオリンピックには出場できません。
 
現代の情報過多肥大時代にあっては「速読の技術は《現代社会参加標準記録》ならぬ、《参加標準技能》のようなものである」と言うことができるのではないでしょうか。要するに、選抜する側は物理的に、時間的に、時間無制限型の選抜試験を行なうことができないし、受ける側にとっては、この技能を備えていないと、せっかく実力があっても実力を十分に発揮する場や機会を与えてもらえない、ということなのです。


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