例外的な時間無制限型の選抜試験 |
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現在でも残っている、数少ない時間無制限型の選抜試験というと、小説の新人賞の募集などがそうでしょう。応募者はいくらでもいくらでも時間をかけて徹底して書き込み、納得のいく作品を書き上げることができます。 |
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ところが、首尾よく新人賞を獲得できて登竜門を突破してしまうと、一変して、「締め切り」という名の時間制限が襲ってきます。応募の際に時間無制限型の取り組み方をしていた作家は、努力して執筆ペースを上げるか、さもなくば、「作家失格」の烙印を押されて無惨に脱落していくしかありません。 |
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毎年、数多くの新人作家が新人賞を受賞してデビューしていながら、いつの間にか文壇から消えてしまうのは、1つにはこういう理由もあるのです。新人賞の数は50ほどもあり、しかも、たいていが年に2度の募集ですから、毎年100人ずつの新人作家が誕生している勘定ですが、プロ作家の数は200人くらいで、この20年ほどは全く変化がありません。 |
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選抜試験は時間無制限型でも、生き残り戦争となると、そんな悠長な形式のものは、現在では皆無に近いでしょう。 |
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速読法は新時代のパスポート |
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また、速読法が必須条件だということでは、もっと別の要因もあります。「日進月歩」という言葉で地をいっているのが、パソコンなどのOA機器の世界で、数年前の高級機種の性能がすぐに安価な普及機種に組み込まれてしまいます。新しいもの好きで、先走って購入した人が、「あと半年、待てばよかった!半分の値段でもっと高性能な機種が買えたのに・・・」などと、地団駄を踏むこともある、というのは周知のとおりです。 |
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こういったOA機器の性能アップや通信速度の向上で、以前の300ボウ(分速1,125文字)が主流だった頃とは比較にならないほどのデータのやり取りができるようになったのです。ますます日本人の平均読書力との間の差は大きくなる一方です。 |
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データ通信の高速化もテクノストレス症候群の一因 |
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この猛烈なペースで、日常業務としてデータ処理を続けたら、いったいどういうことになるでしょうか?ふだん走る訓練をしていない人が、マラソンや駅伝の選手が走っているのを見て自主伴走を試みた場面を想像してみてください。30メートルなら、あるいは50メートルなら、ついていくことができるかも知れません。短時間なら人間は意思と頑張りで、自分の能力以上のことをすることができます。 |
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しかし、長続きはしません。やがて筋肉がオーバーワークになって、疲労の限界に達し、脱落してしまいます。OA機器を扱っている場合には、筋肉ではなく、精神がオーバーワークになって疲労の限界に達します。それが「テクノストレス症候群」と呼ばれる不健康状態、コンピューター・ノイローゼとも呼ばれるOA機器不適応症です。 |
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これは重大な社会問題となりつつあります。この問題が発生するようになった最大の原因は、道具にすぎないOA機器が高性能化したにも関わらず、それを取り扱う人々が、道具に適合した水準まで能力を高度化するためのシステマティックな訓練を、ほとんど受けていない、という点に帰着します。 |
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「OA機器といっても、要するに、ただの道具にすぎない。ただの道具を使いこなすために、主人である人間が能力を高度化するための訓練を受けるのはおかしい」、と考えている人がいるかもしれませんが、それは間違っていると言わざるを得ません。現に、生活を豊かに、文化的にする道具にすぎない自動車を乗りこなすために、我々は自動車教習所に通って運転の練習をし、免許をもらって初めて、一般道路に出て運転するではありませんか。 |
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自動車も、発明されたばかりの頃は、まだ台数も少なく、たいした速度も出ず、特に免許制度などというものを設けなくても、これといった問題が生じることはありませんでした。現在のOA機器が、ちょうど自動車における免許制度の不要時代から必要時代への過渡期に相当する(将来的には実際にライセンス制度が導入されるかどうか、というのは、別次元の問題です)と言ってもいいでしょう。 |
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それでもあなたが、OA機器を操作する前にトレーニングなど不必要だと、本気で考えているとしたら、これまた、あなたの認識は甘過ぎると言わざるを得ません。能力が不十分な状態でOA機器を連続使用しようとすると、どうなるでしょうか? |
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意思の力を使って、無理をすることでカバーしようとしますから、その無理がきかなくなるのは時間の問題で、やがては高い確率で、テクノストレス症候群に冒されてしまいます。 |
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そのうち何割かの人は健康を害して、ノーマル社会生活からのリタイアや不本意な職場への転職を余儀なくされ、さらに何割かはノイローゼが嵩じて鬱病などに冒されてしまうかも知れません。あるいは、残業と休日出勤で自分の割当量を処理しようとして、過労死するかも知れません。 |
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今こそ、日進月歩で高性能化していくOA機器を問題なく使いこなせるように、これを取り扱う人間の能力を高める訓練を科学的にシステム化しなければなりません。それが、未来の高度情報社会を真の意味で見通した「時代の要請」と言えるのではないでしょうか。そして、速読法とは、能力を高めてOA機器を取り扱う人々をテクノストレス症候群に冒されにくくするという、ワクチン的な要素を持っています。様々な角度から分析検討してみて、速読法は高度情報化社会(それはさらに高速化・肥大化。多次元化していきます)に必要不可欠な技術の1つであると言えます。 |