長い間の習慣で文字が視野狭窄の原因になった
 
あくまでも条件反射が原因で視野を狭窄させているのだ、ということの証明に、この挿絵を見てもらいましょう。右脳派と左脳派の人のイメージをイラスト化したものです。ちょっと、手で交互に吹き出しの部分を隠してみてください。さあ、どういう現象が起きるでしょうか?
 
風景画の場合には、一目で全体が見渡せるはずです。ところが、風物を文字に変換しただけでの下の絵の場合は、右上隅の文字を見ると、対角線の位置の左下隅の文字が、視野から消えるはずです。左上隅の文字を見ると、対角線の位置の右下隅の文字が、視野から消えるはずです。
 
完全には消えないまでも、同時に読み取ろうとすると、あたかも盲点に入っていくような、かなりの読みにくさを感じるはずです。読みにくさを感じる原因は、文字を端から1つずつ、順番に直列処理しようとする(意味を直列的に読み取っていく)条件反射が起きているだめなのです。
 
そして、この条件反射のために、最も遠い位置の文字を不要なものとして、視野から除外しようとする無意識の作用が働いたのです。黒丸と違って、この風物の絵の場合には、それを置換した文字と複雑さの点において、同等であると言ってもいいだろうと思います。
 
この単純な実験で、「大多数の人間は、文字を読もうとした時には視野を絞り込む条件反射を起こす」ということを、事実として納得してもらえたのではないでしょうか。要するに、梅干しを見ると自然に唾液が出てくる、それと同じように、文字が視野狭窄の原因になってしまったわけです。
 
遅くなる2つの原因
 
さて速読法は、今までスキーやスケートをやったことのない人が、初めてスキー、スケートに挑戦して覚える、というのとはちょっと違います。それですと、運動神経によって覚えるまでに相当な差が出てきて、中には、途中で断念してしまう人も出るかも知れません。
 
速読法の場合には、まず遅読の原因になっている2つのブレーキを外します。そうすると、それだけで単純に読書スピードは上がってしまいます。つまり、速読法という技術を新たに植え付けるのではなく、本来あるべき姿に引き戻すのです。だから、速読法はスキーやスケートを覚えるよりも、よほど簡単なのです。
 
人間本来の能力を押さえつけて遅読をさせている原因(ブレーキ)の中で最も大きなものは、次の2つです。
1)文章を1文字ずつ音読変換して確認しながら読む
2)視野を狭い範囲に絞り込んで、端から順番に細切れ状態で読んでいく
このうち、2)のブレーキを1)のブレーキよみも先に外すことはできません。まず、1)のブレーキを外し、しかる後に2)のブレーキを外すことに取り組みます。
 
1)のブレーキは、音読時代の名残です。声に出さないで黙読している人でも、大多数は黙読時に無意識に、あるいは半意識に声帯を動かしています。そうすると、声帯は筋肉でできていますから、その動きにはどうしても限界があります。カール・ルイスのような素質も体力もあるランナーでも、なかなか100メートルで9秒の壁を破れないのは、筋肉を使っているからです。
 
カール・ルイスと一緒に走ったら、たちまち後方に置いていかれますが、しかし、観客席やテレビでの走りを見ている人は、置いていかれずに、楽々とゴールまでついていくことができます。馬鹿馬鹿しいような話ですが、これは筋肉を使わずに、目だけを使っているからです。読書でも、声帯という筋肉を使わずに、目だけを使って読むようにすれば、それだけでも、格段にスピード・アップするのです。
 
2種類の非音読: 黙読と視読
 
非音読には、外からは見えないけれども声帯を動かしてしまう読み方と、声帯を動かさない読み方とがあります。前者が一般的な黙読で、これに対し後者を、視読と呼びます。速読のためには、まず第1段階として黙読から視読への切り替えを行ないます。
 
速読入門トレーニング・セットの読書速度確認メニューなどで、あなたの読書速度を計測してみてください。ジャンルにより、やや読書速度は異なってくるはずですが、最も速い数値でも分速1,000文字を越えられなかった人というのは、完全に1)のブレーキが作動して能力を抑制しているのだ、と考えることができます。この1)のブレーキを外すことができましたら、次の段階として2)のブレーキを外します。


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