並列処理は第2のブレーキが外れた時から
 
1)のブレーキを外しただけですと、依然として視野を狭い範囲に絞り込んで、端から順番に細切れ状態で読んでいく読書の形態に変化が起きませんから、情報を直列処理していることに変わりはありません。そうすると、例えばある情報を電話回線を通して送る場合に、人間の肉声でしゃべって送るのと、ファックスで送るのと、どっちが速いか考えてみてください。
 
肉声は一度に複数の音を発することが出来ませんから、直列送信です。これに対して、ファックスは並列送信です。比較するまでもなく、単位時間あたりの情報量は、ファックスのほうが大量に送れます。細かくビッシリと打ち込まれたワープロ原稿が際限なく送られてきたら、どんな早口の人でも、それを読み取ることはできません。
 
記録してチェックする場合でも、そうです。肉声はテープ・レコーダーに記録することはできますが、これを再生するとなると、いくら早回ししても情報は直列的に出てきますから、スピードにはおのずと限界があります。やはり、目でチェックできるファックスにはかないません。
 
直列処理読みでは分速3、000文字〜5,000文字程度
 
1)のブレーキを外す(音読・黙読を視読に切り替える)だけで達成できる速読スピードは、分速3,000文字から5,000文字ぐらいになります。数字の幅があるのは、目を動かす筋力に個人差があるためです。文字を読み取る時には、当然、目を動かしますが、目も筋肉(眼筋)によって動いていますから、1)で声帯という筋肉器官が障壁になったのと同様、今度は眼筋という筋肉器官が、障壁になります。
 
そこで、視野を絞り込む2)のブレーキを外して、一度に読み取る文字量を増やすようにします。そうすると、目の動くスピードが変わらなくても、識幅(一度に読み取れる文字量の視野)が2倍になれば読み取り速度も2倍に、5倍になれば読み取り速度も5倍になる理屈です。
 
しかし、実際のところ、なかなか「文字を見る時も景色を見る時も同じ」というレベルまで持っていくことはできません。つまり、かなりブレーキが外れにくいということですが、訓練を積み重ねることによって、相当に視野は拡大することができます。とくかく、持てる潜在能力に蓋をしている2種類のブレーキを持続的な訓練によって外していきます。完全に2)のブレーキを外せれば、分速数万文字どころか、分速十数万文字でも数十万文字でも読書能力を上げられる可能性があります。
 
しかし、これまでの長い間の生活習慣によって条件反射としてしみついているわけですから、完全にということは、ほとんど無理だと考えたほうがいいでしょう。それでも、部分的に外すことは十分に可能で、ブレーキのほんのわずかの部分を外しただけでも、読書能力は2倍、3倍、5倍・・・と伸びていきます。
 
人間の持てる能力は氷山の一角
 
人間の能力は氷山にたとえて考えることができます。氷山というのは周知のように、海面の上に出ている部分は全体の中のごく一部で、大部分は海面下に沈んでいて、その全容を目にすることができません。人間の潜在能力というのは氷山全体で、顕在能力(日常的に使っている能力)は海面の上に現れている部分に相当します。
 
現実の氷山の場合には、大部分を海面下に押し下げるのは重力(地球の引力)の作用によります。人間の能力の場合ですと、声帯を動かすとか、眼筋を動かすとか、とにかく筋肉の動きにはスピードの限界があって、しかもそれが、本来の能力と比べて極めて低次元のところにあるので、それが能力の大部分を表面に現れないように、潜在部分を押し下げてしまうわけです。
 
ところが、速読法の訓練によって段階的にブレーキの要素を外し、声帯や眼筋を動かさなくても目から情報を入れられる、というようにすると、たちまち能力をいう名の氷山は、海底に乗り上げてもしたかのように浮上してきて、その隠れていた巨大な部分を、海面の上に現すのです。そして、どれだけ大きく潜在能力が顕在化して海面上に現れるかは、ブレーキを何パーセントぐらい外せるかにかかっているわけです。


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