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つまり、「放置しておけば、覚えた片端からどんどんものを忘れていくのが人間で、《反復学習》をするからこそ、人間は物事を覚えていられる」といっても過言ではないのです。それでは世に稀に存在する、見聞きした(学習した)物事を一発必中で覚えてしまう記憶術の名人・達人は、いったいどう解釈すべきなのでしょうか? |
エビングハウスの忘却曲線の例外、ということになるのでしょうか?忘れたくても忘れることができない、という例外的人物も、ごく稀には存在するようです。しかし、普通は記憶術の名人・達人と言われる人々は、そういう人の著作を丹念に読んでみるとわかりますが、記憶に際して右脳の視覚野を用い、イメージと結合させる(覚えようとする事柄を映像化して脳裏に思い描く)などの人工的な記憶の補強作業を導入して記憶術の修得に成功しているのです。 |
天性の素質もあるでしょうが、決してそれだけではなく、それなりの努力と工夫を積んでいるわけです。さて実は、記憶術の名人・達人の場合、上記の右脳の視覚野の同時活用が、どうやら学習直後の反復学習に相当する役割を担っているのです。学習するのと同時並行に、イメージとの結合作業をやっているわけですから、第1の学習と反復学習との間の時間的経過がほとんどゼロ、ということになります。これが、一般の人と比べて極めて効率的に覚えられる最大の理由なのです。 |
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ところが、イメージ力が貧困な人(自分の意志では鮮明な映像を脳裏に描けない人)というのは、読書などの際には右脳の視覚野のスイッチをOFFにしてしまっているわけです。ですから、こういった人工的な補強手段を用いた記憶術という「最初の学習からの時間的な経過がほぼゼロである」という有効な反復学習手段を用いることが出来ません。 |
そこで、どうしても反復学習までの時間的な経過が発生し、多少は学習した内容が忘却によってもれ落ちるのを免れないわけです。それは仕方ありませんから、忘却によるもれ落ちをカバーするために、できるだけ迅速に反復学習に取り組むのがよいということになります。 |
あることを学習して反復学習する場合、1週間後の1時間よりは、10分後、20分後の5分のほうが、記憶を定着させるにははるかに効果が高く大きいのです。またその反復学習も、1度の反復よりは、数度の反復を重ねたほうが効果が高く大きいことになります。この反復学習の回数と記憶に関しては、次のような実験報告があります。 3回の反復学習・・・・・・・・記憶は一応、確かなものとなる。 5回以上の反復学習・・・・・記憶は圧倒的に確実になる。 |
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一般に「頭がよい」といわれる人々は、そうでない人々に比べて、確かに記憶力がよいのですけれども、その差異をこのエビングハウスの忘却曲線に基づいて分析してみると、前者が意識的・無意識的に反復学習の回数を多くとっているのに対し、たいていの後者は、怠っている傾向が見られます。 |
更に、そうなる原因を追求してみると、前者は概して読書スピードが速く、忘却量がそれほど大きくなる前に、反復学習に臨むことができます。ところが、後者は概して読書スピードが遅いので、ちょうどよい切れ目とか、段落の所まで学習した時には、早くも既に忘却現象が始まっていて、初めの方を忘れてしまっている、という事態に陥るのです。 |
そこで、学習するに際して、読書スピードの遅い人と速い人(天性のスピードを持っているか、速読法の訓練によって後天的にスピードを身に付けた人)とは、次のグラフのような曲線の違いを見せることになります。速い人ほど角度の鋭いノコギリの刃型の学習曲線になっていきます。また、学習面だけでなく、試験のように学習して記憶回路に蓄えた情報を引き出す際にも、この読書スピードの差は大きな得点力の差になって現れてきます。 |