前述の1〜7をもっと要約すると、次の2つになります。
 
1 10秒間、全速で上下または左右の目印のだけを追い、中間の文章を飛ばす。
2 半速に落として、30秒間最初は抜かした中間の全部の文字も目でなぞる(全部の文字を目に入れる。)
 
この1と2を読書や、勉強を開始する前にウォーミング・アップとして実行してください。これが最も単純で基本的な速読法のトレーニングで、人によっては、これだけで数倍の速読能力が得られる人もいます。それも、修得までに何週間とか何ヵ月という期間でなく、ほんの数日のうちに、です。その理由としては、次のようなことが考えられます。
 
1 高速で読まずに文字を追うことで、その高速に慣れていき、1個1個の文字の読み取り速度が上がる。 
これは、自動車に乗って一般道路から高速道路に上がり、しばらく2倍から3倍の速度で運転し、また下の一般道路に戻ると、元の速度で走っても、それ以下まで落としたように、異常に遅い速度に感じることがあります。それはつまり、人間の脳は必要に迫られると、スピードに順応して自分自身を加速する性質がある、ということですが、その機能が速読法においても活用できるということです。
 
2 速過ぎて声帯が動かないので、自然に声帯を使わない習慣が身に付く。 
もともと、音読から黙読に切り替えた時に、本人の自覚としては、声帯を動かしているつもりはないのです。それが、これまでの癖で、ついつい気付かずに動かしてしまっているわけで、こういう人は声帯を動かせないスピードで文章を見るだけで、声帯を動かしてしまう癖から抜け出せます。ところが、読書速度の非常に遅い人の中には、その癖が平均以上に強く残っていて、口の中でボソボソと声に出して読む、そばに寄って耳を近づけると、かすかながら声がもれ聞こえてくる、という読み方をしている人がいます。つまり黙読にも、限りなく視読に近く読んでいる人と、限りなく音読に近く読んでいる人とがいるわけです。当然、後者の音読に近い黙読をしている人ほど元に引き戻されやすく、こういうタイプの人は残念ながら、2点以外読まず訓練での上達率は低く押さえられてしまいます。
 
音読傾向が強いほど悪循環に陥る
 
このように「心の中で音読する」習慣には個人差があって、その傾向の強い人と、それほどでもない人とがいます。音読傾向の強い人ほど連動して強く声帯が動くために、それがブレーキとなって、読書速度が遅くなります。また、見るだけなら複数の文字が見えますが、音読となると絶対に1文字ずつしか発音できませんから、視野の絞り込まれる度合いが強くなります。
 
そして視野が狭い範囲に絞り込まれると、その部分だけを見て全体を見ない、という見方になり、先のほうに何が書かれているのか予測がつかないので、いよいよ読書速度が落ちる、という悪循環に陥っていきます。逆に、読書速度が非常に速い人は、黙読でも限りなく視読に近く、視野を広く保って、意識の1割とか2割を割いて先のほうに目をやり、内容の見当をつける、という読み方をしている場合が多いのです。このためある程度の内容の予測がつき、いよいよ読書速度が加速されるようです。
 
このように、視野の広さと読書速度とは、かなりの相関関係があるわけですから、そのことを逆用して視野を広げる訓練を積んでいけば、連動して音読傾向が希薄になって、読書速度が上がります。声帯との連動を切り離し、視野との連動を強める、ということです。そのためには、文字を見た時の意識の集中度を必要最低限(文章の内容を理解できる限界)まで引き下げるのが、ポイントになります。
 
同じようなことが、文字を書く場合にもあって、もっと筆圧を下げても十分に文字を書くことができるのに、大多数の人は必要な筆圧の数倍の力を込めて文字を書いています。


戻る  目次  次へ