大脳への情報のインプットとアウトプット
 
文章を読んで、その内容を理解するということは、目にした文字情報に対応する知識を頭の記憶回路の中から引き出してきて結び付けることと言えます。「文字を読む」というのが、コンピューター的に言えば「情報のインプット」であり、「対応する知識を頭の中から引き出して結合させる」というのが「情報のアウトプット」です。
 
これに関しては、次のことが言えます。
1 この入力スピードと出力スピードは強く連動していて、トレーニングで前者を加速すると、後者も自動的に加速されます。つまり、読書スピードを上げていくと、読んでいる内容が平易で理解の範囲内であるものであれば、理解力も高められるのです。
2 そのことによって、速読が可能になるばかりでなく、思考速度なども上がります。限られた時間で従来の数倍のことを考えられるようになるわけですから、速読のトレーニングを積むことは、潜在能力開発手段としては、言葉を喋るスピードなども連動して上がるので、気をつけないと、「他人が自分のペースについてこられないで、自分1人が独走してしまう」という状態になることが往々にして起きる、ということです。
3 逆に、頭の中に知識がない情報は、速読しようが遅読しようが、結合させることができないわけですから、理解できません。速読法が難しい学校に入るための必要条件にはなっても、十分条件にはなり得ないのはそのためで、極端な例としては、習ったことがなくて単語がわからない外国語の文章がそうです。このように、りかいできない文章、現在の学力・知識以上の難解な文章は、頭の中の知識の水準まで噛み砕いた解説の文章(マニュアル・参考書・教科書など)で、知識の橋渡しをしてやる必要があります。もちろん、そういった文書は、十分に速読できます。
 
知識はすべて段階的な積み重ね
 
どんな難解な情報も、その基礎となっている平易な情報があるわけで、そういう基礎単位に分解してから、その分解の方式を記憶回路に蓄えられるようにします。その方式が知識として完全に頭に入るまでは、それなりの時間を必要としますが、いったん入ってしまえば高速で取り出せます。それが速読法を活用した勉強法です。
 
知らない単語や知らない語句(1つ1つの文字は知っているけれども、まとまると知らない言葉)が数多く含まれていて理解できない文章は、速読できません。それと同じく、読めない文字も、速読できません。これは、アラビア文字であるとか、ロシア文字であるとか、全く馴染みがない文字、という意味ではなく、たとえば視力の悪い人にとっての、遠くに小さく書かれている文字であるとか、要するに識別能力の限界を超えているために霞んでいて識別できない文字、ということです。
 
これは、しごく当たり前のことで「識別できない文字が読めるわけがない」のですが、なぜか速読法ということになると、一種の期待過剰で、意外にこれを勘違いしている人は多いのです。「速読法のトレーニングをすると、いっぺんにページ全体の内容が掴めるようになりますか?という質問をする人が、それです。
 
速読法の到達限界
 
速読法の限界は、次のようになります。
1 どんな文字が印刷されているか、文字が識別できる領域の中の文章しか、文章の意味を読み取ることが出来ません。そのために、文字を読み取れる領域を広げる視幅拡大トレーニングをするわけで、このトレーニングについては後の章で詳述します。
2 多くの文字を識別できたとしても、その集合体である文章全体の意味まで一時に読み取れるわけではありません。そのために、一度に読み取れる文字数を増やす識幅拡大トレーニングをするわけで、このトレーニングについても後の章で詳述します。読む本の文字が小さな文庫本などで、1の文字識別領域がその本のページよりも広ければ、ページ全体の文字を見ることはできます。
 
しかし、2の意味を読み取り可能領域がページよりも狭ければ、いっぺんにページ全体の意味を読み取ることはできません。この1、2を広げていくのは、中級・上級の速読トレーニングということになります。このトレーニングでどこまで上達するかは、
 
1 個人の資質
2 開始時点の視力
3 開始時点の年齢
4 取り組み期間
 
などが関係して、誰でも同じレベルにまで上達するものではありませんから、理想的には、小学生・中学生というような早期に始めるのがよいわけです。それでは章を改めて、もっと上級の速読法を解説していくことにしましょう。


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