指先の細かい運動で脳が活性化される
 
前記のことは、京都大付属の霊長類研究所の久保田競博士らの研究によって明らかにされ、すでに一部の専門家にとっては周知となっている事実なのです。左手に意識的な細かい運動をさせると、右脳が活性化されるのです。英単語を覚える時に紙にスペルをよく書いたほうが、ただ単に繰り返して読んでいるよりも速く記憶できる、あるいは計算力や漢字書き取り能力などは実際に紙に書いて行なわないと見に付かないなどと言われるのは、この理由によります。
 
その場合は右手を使いますから、活性化されるのは論理を司っている左脳です。しかし、ずっと同一で単純な繰り返し運動をするような、無意識的で機械的な運動だと、それほど強くは活性化されません。要するに、大脳の命令で動くような運動をさせることが必要だということなのです。一見まるで関係がないように思えるのですが、このページめくり訓練をすると、しないのとでは、速読の上達度に大きな違いがでます。ページめくり訓練をしないで、当研究会の専用ソフトだけでトレーニングしたとしても、それなりに速読法は上達していきますが、上達曲線をグラフに作成してみると、熱心にページめくり訓練を行なった場合と比較して、半分ほどのカーブになります。
 
超高速ページめくり訓練
 
それでは具体的な訓練内容に入っていきますが、まず全く文字が認識できない猛スピードでめくる超高速ページめくり訓練です。これはページを正確にめくることにより、左手の指先に強い刺激を与えること(右脳を活性化すること)を主目的にします。ですから、一応はどんなタイプの本でも構わないのですが、その次に行なう、高・中・低の3段階のページめくり訓練に備えて、次のような本を準備してください。
 
1 背表紙の柔らかいペーパーバックの装丁で、勢い良くページをめくった時に弾力があって、良くしなうような作りの本。ページ数は、200〜300ページくらいが適当でしょう。
2 できるだけ活字の大きな本。小学生の低学年向けの児童書だと理想的です。こういった本が準備できたら、本の背表紙の中央、もしくはやや下側を右手で軽く支えて持ち、左手の親指を閉じたままの本の左端下側に持っていきます。次に左手の親指の指先の表面と紙の端をこすって本を素早くめくります。めくるスピードは最初から最後まで1秒以内です。
 
超高速ページめくり訓練は、5回ほど繰り返して、同じめくり方をしてください。めくり方の注意点を要約すると、次のようになります。
 
1 とにかく、めくる速さが第1の目的です。そのために、キチンと本の内部までめくれなくて、奥の方は文字が見えない状態でめくれても構いません。半分から3分の1くらいめくれれば、十分です。
2 指先の皮膚の表面と紙の端がこすれて大きな音を立てるほどめくります。できるだけ「パラパラ」という響きではなく、「ビュッ」という風を切るような音をたててめくってください。
3 通常、めくりに使う指は親指だけですが、多くの指を使えば使うほど、それに対応した脳の運動野が刺激されるわけです。そこで親指で2のように勢いのある音を立てられるようになったら、次は人差し指、その次は中指・・・・・というように、5本の指のどれを使っても遜色なくめくれるようにトレーニングしてください。
 
このトレーニングは右脳を活性化して記憶力も強化しますから、試験勉強などに取り組んでいて何か早急に暗記しなければならない、というような時には、記憶のための準備運動としてこの運動だけを行なうのも効果的です。
 
高速ページめくり訓練
 
さて次は、高速ページめくり訓練に移ります。このトレーニングは、次の要領でやってください。
1 いちばん内側の行の文字まで、つまり印刷されている全部の行が視野に入るように、キチンと本を奥までめくってください。
2 キチンと奥までめくった状態での最高速でめくってください。超高速ページめくりが、全ページを1秒未満でめくってしまうのに対して、それよりもやや遅い2〜3秒くらいでめくります。
3 ページをめくりながら、文字が見えても見えなくても、ページ全体を(両側のページとも)見るようにしてください。見なければ、文字の識別能力は向上しません。その際、見開きの2ページを一目で見るような感じで見てください。
4 右ページだけとか、上半分だけとか、ごく一部だけを限定的に見ることがないように、気を付けてください。
 
これも5回ほど繰り返してめくってください。慣れてくると、チラホラと各所に識別できる文字が点在しているのが見えるようになります。その識別できる文字が、右ページだけであるとか、上側の半分だけであるとか、かたよった領域に見えるようだと、あなたの見方がページ全体を見ていない、どちらかの側をかたよって見ているということになります。
 
できるだけ意識を見開きの2ページ全体に均等に散らせるようにトレーニングしてください。そう言われても、最初は、なかなか全体を広角度に見るということは、できないかも知れません。その場合は、ページをめくっていきながら、視点をあっちこっちにランダムに飛ばすようにして見ます。つまり、サッカーやラグビー、バスケット・ボールのような団体競技では広い範囲に散らばって行動している選手を一度に見ないと、的確な形成判断や自分の採るべき行動がわかりません。
 
そこで、一流選手はそれができるのですが、初心者のうちはそれができませんから、しきりにあっちこっちを見て、視野の狭いのをカバーするようにするしかありません。それと同じようなカバーする見方をする、ということです。そうすると、少なくとも視点を飛ばした方向だけは、いくつかの文字をハッキリと識別することができるでしょう。
 
そしてその、視点を飛ばした方向がランダムに上手にページ全体に分布すれば、識別できる文字も見開きの2ページ全体に分布する状態になります。ランダムに視点を、あっちこっちに飛ばす、そのスピードをだんだん上げていくようにすると次第に視野の絞り込みが起きなくなって、やがては以前よりも視野が広がっていきます。こうやっていって、最終的には、文章の意味をキチンと理解しながらでも全く視野が狭まらない、というようにするのが、このトレーニングの目的です。


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